2023年7月 研究会ダイジェスト

  2023年7月8日(土)13:30~16:30

かながわ県民センター3階301会議室

研究会担当:平石

                                  

 本年3回目となる研究会が7月8日(土)かながわ県民センターで開催され、今年度最高となる32名の当会会員が参加しました。今回は、発表者として、ザロープの会員である安藤雅浩氏並びに岩本和明氏を招聘しました。安藤氏からは「スクラッチビルトによるフランダースのガレオンの製作」について、また岩本氏からは「スクラッチビルトによるロイヤルキャロラインの製作」について、それぞれパワーポイント及び製作した帆船模型や各種治具をご持参いただき、解説していただきました。

 

 発表を聴講した後の会員の反応は、製作歴の長い会員からも「唖然として、言葉がない」、「驚くばかりのマニアチックな製作」等々、賞賛の嵐でした。また、珍しいツールや、各種使用製品についての質問もあり、関心の高さがうかがわれました。なお、今回発表していただいた2隻の帆船模型は、いずれも5月に開催されたザロープの展覧会に出品されたものです。

 

 発表の概要は、次のとおりです。

1.フランダースのガレオン(Flemish Galleon)について

 今回発表された帆船模型は、ベルギーの北部に位置するフランダース地方の家臣がスペイン国王フィリップ2世に送ったガレオン船の模型を参考に製作された帆船模型であり、実船は歴史上存在していない。

 オリジナルの模型は、スペインのマドリッド海事博物館に陳列されている。飾りとしてデフォルメされ、喫水からキールまでの長さが極端に短く絞り込まれた形状となっている。模型製作にあたり、必要な船体復元図は、ランドストロームという20世紀のスウエーデン人イラストレーターが描いた絵等を参考に、発表者が船体復元図を描いた。また両舷の装飾は博物館モデルを元に製作したのが、本作品「フランダースのガレオン」である。

 

2.装飾の製作にあたり使用した材料等

  1. 装飾は、プラスチックの角棒や丸棒に、エポキシパテで肉付けし、これをシリコンで型取りし、複製して、必要数を製作した。
  2. 両舷には、船首から船尾かけてアルファベットの文字(短文)が飾られている。文字の製作は、文字テンプレートを使って、プラバンを切り出した。切出しは、ヒートペンで行うが、テンプレートをガイドにしながらヒートペンを当てて切り出し、文字部品を作った。
  3. 装飾品を張り付ける木の部分の下地は、ベースホワイトで塗り、順次、黄色、青、赤などを塗り重ねる等により製作した。また、モールに相当する細い木は、最後に張り付け、その後、ワトコで処理した。金色部分の塗装は、田宮のエナメルを常用。
発表者の安藤さん
発表者の安藤さん
ランドストロームによるイラスト
ランドストロームによるイラスト
博物館所蔵のオリジナル模型
博物館所蔵のオリジナル模型

「ヒストリックシップモデル」に掲載されているガレオンの図
「ヒストリックシップモデル」に掲載されているガレオンの図
装飾部品複製用薬剤
装飾部品複製用薬剤
文字切り抜き用ヒートペン
文字切り抜き用ヒートペン

文字切り抜き用テンプレート
文字切り抜き用テンプレート
切り抜き後の文字
切り抜き後の文字
完成したフランダースのガレオン
完成したフランダースのガレオン
完成したフランダースのガレオン
完成したフランダースのガレオン

3.ロイヤルキャロラインの製作について

 

(1)製作にあたってのコンセプト等

 本船は、2016年に初出品して、今回47回展に再度出展した。縮尺は、48分の1で製作。

ロイヤルキャロラインのキットは、パナルト社のものがあり、ザ・ロープでも多くの人が作っているが、アナトミーの本の図とキットの装飾を見比べて、スクラッチビルトとした。

製作のコンセプトは、➀華やかなものにすること。➁彫刻をよく見せること。③船室の中も見せること。④スケールモデルにすること。以上の4つである。

 製作にあたっては、装飾の部分を彫塑等で製作した事例もあるが、木と金物を使ってのスクラッチビルトにした。

 マストやリギングは、止め、船体中心とした。色は、アナトミーの本を参考にしつつ、華やかになるよう異なる色を適宜用いた。構造模型とはせず、バルクヘッドモデルとした。

 

(2)外板、フレーム加工について

外板の板材は、桂の赤身を用い、明るくした。外板は、境目がきれいになるよう色を付けた後に張り付けた。

外板曲げは、スチームアイロンを利用しているが、会員にも推奨。

外板は、エポキシとガーゼで裏打ち補強して経年劣化を防いでいる。

 フレーム溝切は、サーキュラーソーにアタッチメントを使用してブレードを振らして作成。また、マストの角度は、フライス盤を調整し87度にして加工。

 

(3)接着剤等

研磨可能な黒い瞬間接着剤と瞬間クリアパテ、瞬間接着剤効果促進剤、等を使用。

 

(4) 甲板等の製作

 デッキの下地の作り方としては、デッキのコーキング材に厚さ0.03ミリメートルの紙を使用。また、紙は接着した後、クリアラッカーで固めて削りやすくするなどの工夫を施した。甲板の板材のエリマキは、自作治具を用いて適宜板幅を微調整しながら隙間のないよう張り付けた。またクウォーターギャラリーは、内部と外部をユニットにして作成。

 

(5) ヘッド等の製作上の工夫

 ヘッドは左右を接着して同じ形になるよう成形し装飾つけた。お湯につけてばらした後、上下のボーダーとして水につけた0.3ミリメートルのエリマキをまげて接着した。また、チークの部分を船体に接着する際は、クリップで押さえたときの傷を防止するために皮の小片を使用。

 

(6) 装飾関係のツール紹介及び各部の製作技法等

  1. ルーターは、東洋アソシエーツのものが高価だが、細かな成形作業に最適。工程の終盤まで利用可能なため推奨。
  2. 細かい細工に際し、印刀、丸刀や平刀は、研磨治具代わりなど上記ルーターによる成形の補助具として使用。
  3. ボーダー部
  4. ケガキ針でけがいてガイドの穴を開けた後、丸刀で、型取りし、先端工具(ドリル)で成形。
  5. 塗装については、下地に、サーフェイサーのホワイトを使用。金色は、クレオス スーパーメタリックを使用。墨入れには、黒に赤を混ぜて使用し、深みを表現した。
  6. ガンレール端末は、真鍮パイプで作成。中に紙を挿入し、似せて、それらしく形成。

(7) 彫刻

 木材は、舷側に2.5ミリメートル~4.0ミリメートル厚の和柘植を使用。ドラゴンの彫刻では。糸鋸がターンする場所にドリルでこまめに穴を開けて切断した後、細部に切込みを入れるなどし、その後、ハンドピースで研磨。

 エンジェルの顔は、西欧人の顔と日本人顔の特徴を比較して相違点を理解した後、作成。表面仕上げは、紙やすりやスポ ンジたわしを使用して、滑らかにする。

 

(8) フィギュアヘッド等の製作

  1. 柘植の角棒から切り出すが、正面、横面の絵を書き込み、輪郭に沿って各面とも細穴を開けて成形。
  2. 冠の作り方は、出来たとき中心になるように0.3ミリメートルの真鍮棒を短冊形に切った真鍮板に銀ろう付けし、あとは、瞬間接着剤で組み立てる。
  3. 彫刻に持たせる葉っぱとラッパは、銀ろうで大まかな形を付け、叩き、ニッパー等で切込みを入れて成形。ベールは、釣り用の鉛の板重りを加工して、なびかせる。
  4. 複製は、ダイヤブロック、シリコン、硬化剤、油粘土を使用。ダイヤブロックを利用した型枠に油粘土を利用してシリコンで鋳型を作る。レジンは気泡が出るのでは使わず、低融点合金を使い、シリコンの鋳型に流し込み、顔等をルーターで成形。

(9) 船室内の床

 プリンターによる紙は、使わず、寄木細工で製作。

 具体的な内装は、外壁側の窓、羽目板、額縁、階段、建具等を図面のとおり作成。

 

(10) ランタン グレーチング、階段等

  1. グレーチング等は、治具で溝を切り、作成。
  2. 階段は、踏板を挿入する溝が見えるのが気にいらないので、異なる製作法で製作。
  3. ランタンの製作法は、初めに、パンチングメタルを用いた箱を用意し、パンチングメタルの上においたランタン上の突起物の上に柔らかくした塩ビシートを被せて箱側面の穴から掃除機で吸引すると突起物の上の塩ビがきれいに被り、ランタンの形状が出来上がる。

(11) 艦尾のペインティング

  透明な薄いプラバンの表にアナトミーの絵に合わせて筋彫りする。裏面に金色、表面に黒で色を付けた後、スジボリ部分に墨入れをすると繊細な絵ができる。

発表者の岩本さん
発表者の岩本さん
完成したロイヤルキャロライン(1)
完成したロイヤルキャロライン(1)
完成したロイヤルキャロライン(2)
完成したロイヤルキャロライン(2)

完成したロイヤルキャロライン(3)
完成したロイヤルキャロライン(3)
完成したロイヤルキャロライン(4)
完成したロイヤルキャロライン(4)