塗 る

 

たとえ船体を生地のままにしたい場合でも塗装は欠かせません。塗装についてもその作業技法は沢山の参考書があります。詳しいことは専門の参考書を見ていただくことにしてここでは特に帆船模型としての特徴だけを説明します。塗装をする機会ですが、帆船模型では大体可成り最終工程となります。プラモデルのように部品毎に先に部品の塗装を済ませた後に組み立てる方法もありますが、船体の外板を一枚一枚塗装を済ませて貼るような行程は無理です。船体は加工を全部済ませて塗装することになるでしょう。帆船模型でも部品は塗装後組み立てた方が仕上がりがはっきりして感じが良くなります。最終工程であるだけにその巧拙が作品に大きく影響します。

 

〇 下地処理

まず塗装面は接着と同じように油分は禁物です。その理由は塗料も性質的には接着剤と似たようなものだからです。それから塗装前に下地の処理を必要とするのはどんな材料でも同じです。

そして塗装面は滑面にしておく必要があります。僅かな段差も塗装後に反映します。塗装で仕上がりを誤魔化そうなんてとんでもない話です。化けの皮はすぐ剥がれます。

意図的に凹凸の感じを出したいときは滑面にする必要はありません。

下地処理ですが、木地をそのまま生かす場合と顔料を加えた塗料を使う場合では大きく違います。

 

● 木地のまま 女性が化粧しないですっぴんのままを想像してみて下さい。当然お肌の手入れは大事でしょう。帆船の場合も、何も処理しなくても人に見せられる状況になっていなくてはなりません。すっぴんで見えるのですからパテの使用は厳禁です。この場合下地塗装は一切行いません。

 

● 着色塗料 不透明な塗料で塗装するのでパテなどで穴、溝、継ぎ目などを埋め整形に力を入れて下さい。生地は全く見えなくなります。その後、塗料が生地にうまくなじむよう、また塗装後の剥がれを防止するため下地塗料、例えば木の下地ならウッドシーラー、真鍮ならエッチングプライマーなど下地塗料を刷毛塗りします。乾燥後細かいサンドペーパーで軽く表面を滑らかにしておきます。塗装回数は1回でよいでしょう。

 

〇 マスキング

色と色の境界、部品の境界、船腹と船底の境界(喫水線)と色を限定する境界に他の色が進入しないようにあらかじめマスキングします。普通マスキングテープが各種市販されているので適した幅、質、例えばカーブをつけるとき伸び縮みするテープもあります。

喫水線は一時モデラーの間で見る角度によっては船首側が下がって見えるという事で少し上側にカーブを着けるのが流行りましたが、これは素直に横から見てまっすぐに見える線で良いでしょう。

模型メーカーから液状のマスキング液も売っています。複雑な形状のマスキングには液状がよいかもしれません。これは乾燥するとテープのように剥がすことが出来ます。テープを貼った後は塗料がテープの下に浸透しないよう、強く押しつけ隙間があかないようにしておきましょう。

 

塗料を選ぶ

塗料の質によって作品の感じが可成り変わります。いろいろ試して結果を掴めばよく分かりますが、本体で試していると、全ての結果が分かるまでには数十年後という事になります。生地に相当する板きれをサンプルにして試してみるのがてっとり早いでしょう。

 

 透明塗料

特に船体を生地のまま表現するとき、表面の酸化保護と、美観の目的で塗装します。生地のままだからといって塗装しないと、どんどん変色し、これもまた味があるかも分かりませんがうまく塗装した結果とでは可成り美観にも差が付きます。

 

● ニス類 表面がよく光ります。場合によってはキラキラします。光らないニスもありますが、あまり帆船模型ではニスを使う人は少ないようです。

● クリアラッカー 何回か塗り重ねると感じの良い光沢が出ます。光沢を出したくなければ、艶消しクリアラッカーを使うか、クリアラッカーにシッカロールとか石粉を混入して艶消しにします。

● プラカラー 透明と艶消し透明があります。効果は大体ラッカーに似ています。

● 乾性油 亜麻仁油とかワトコオイルを使います。あまり光沢は出ませんが渋い底光りがするような光沢を出し、渋みを好む人はこれを使っています。ワトコオイルはテレピン油で薄めることが出来ます。濃さはこれで調整して下さい。

● オイルステン 塗料というより染料と云った方がわかりやすいでしょう。主に生地に色を浸透させます。黒または茶系をよく使います。塗装をする前に生地を染めるのですが、塗料に混ぜて薄くしたものを塗料毎塗ることもあります。特にワトコオイルに混ぜて塗ると何ともいえない渋みを出すことが出来ます。

 

○ 不透明塗料

主に顔料で着色した塗料です。油性と水性があって、油性の場合はその塗料専用のシンナーで薄めて使います。水性は勿論水で薄めるのですが、水分が蒸発するとその皮膜は硬化し、樹脂状になって水で溶かすことは出来なくなります。剥がすときには専用の剥離剤を売っているので、塗膜の上から塗ると剥がれます。

同じ種類の塗料なら混色は自由です。だからどんな色も作り出すことが出来ます。ただ混合比によって色が微妙に違ってくるので、余分に混ぜておかないと、後で同じ色を再現するのは素人では無理でしょう。それから顔料の比重によって沈み方が違います。使う前には良くかき混ぜて使いましょう。

 

● ペンキ 光沢が良く出ます。おうちの机や椅子に塗って下さい。あまり帆船模型には塗らない方がよいでしょう。

● エナメル 乾燥に時間はかかりますが渋い光沢が出ます。それとブラシ跡が残らないので筆塗りには適しています。下地がプラスチックでも問題なく塗れます。

● ラッカー 塗料がよく伸びるのでスプレーに適しています。手塗りではブラシ跡が目立つことがあります。下地がプラスチックなら使わないで下さい。プラスチックが溶けだしたり、割れたりすることがあります。エナメルの上に重ね塗りをしてもエナメルが溶けだし塗装むらになります。

● プラカラー 溶剤が弱いのでプラスチックにも平気です。まさにプラモデル用の塗料です。帆船模型に塗っても全面塗装するとプラモデル並みになってしまいます。艶消し、半艶も簡単に出来ます。模型には一番よく使われている塗料でしょう。手塗り、スプレーとも問題はありません。

● 水性塗料 模型用とか工芸品用として瓶に入れて売っているものがありますが性質は殆ど同じです。それからチューブに入ったアクリル絵の具がありますが、これも性質的にはあまり変わりませんので私は主にアクリル絵の具を使っています。溶剤が水というのは匂いから扱いの点でも大変手軽で無公害塗料として愛用しています。

 

〇 塗装

方法は手塗りかスプレーです。手塗りの場合は塗料によって刷毛のラインが極端に現れたり、全く刷毛跡のでないものもあるので、塗料を選んだら試し塗りをしてみましょう。

スプレーの場合は塗料が均等に伸びるのでのっぺらな感じになります。

塗装の回数ですが、とても1回では満足できる結果は得られません。スプレーで最低3回、手塗りなら5回以上塗らないと良い結果は得られません。それもただ塗るだけではなくて、2から3回目くらい毎に水研ぎといってサンドペーパーを水に濡らして塗面を磨きます。最近特殊なサンドペーパーで目詰まりのすくないものがありますが、これなら空研ぎでも良いでしょう。勿論塗面は乾燥していなくてはなりません。参考に私の場合は大体15~20回塗装を繰り返します。最初は濃いめの塗料、後になるほど溶剤で薄め、薄い塗料にします。

塗装後はスプレーだとか筆は塗料を溶剤で流し、綺麗にしておかないと次に使えなくなります

水性塗料を使った後の筆の始末は早めに水洗いしておかないと、乾燥してからでは回復しないので、すぐ始末が出来ないときは筆洗いの容器に水を入れその中に浸けておきましょう。

 

〇 仕上げ

塗面に木鑞やワックスを塗ると目立たない艶が出て感じが良くなります。塗装後にワトコオイルを塗っても面白い効果を出すことが出来ます。

ウェザリング(汚しとも云います)を施すと、本物のような年代を重ねた感じを出すことが出来ます。特に欧米の模型に多く見られますが、日本ではこれを嫌う人が多いのも確かです。汚しを下手にすると本当に汚れてしまいます。どちらかというと大変難しい技法なんです。鉄道模型やプラモデルの参考書に詳しく説明したものがあります。何かのとき挑戦してはいかがでしょうか。