工房兼書斎

 

ある人が我が家を訪れたとき、工房を紹介しました。その人いわく「こんな所でもその気になれば船は造れるんですな」という評価でした。そうです大体工房といえば特に帆船模型を作っていると云えば普通、狭くてもそれらしい工作室の感じがするような部屋を想像するでしょう。

ところが、私の工房を訪れた人は大抵感心します。何に感心するのか。

船を造るような雰囲気ではないのです。まず目に付くのはパソコン3台がでんと居座っています。一時は5台並んでいました。別の人が心配してくれました。「こんな精密機械をおいてあるところで木を削ったら、コンピューターはすぐ故障するのと違うの」このご心配にはすぐ答えが出るのです。もうこの部屋で10年もパソコンを使っています。未だに木の粉が舞い上がったことが原因で故障したことはありません。故障は大体保証期間が切れた後2週間以内くらいに起こります。これはパソコンメーカーの戦略通りが実現されているだけです。

それからこんな質問もありました。「小松さん大きい船を造っているんで余程工房は広いんでしょうね」この答えははっきり数字で具体的にお答えできます。わたしの工房兼書斎は6畳です。1メートルモジュールの6畳なんで多少普通の日本間より広く、約7畳に相当します。その中に大きい什器はパソコンをおいているチエスト2個、それに事務机、それに長さ3メートルの本箱、まだあります29インチのテレビとステレオ装置、そして船台兼工作台です。船を造ることができるのが不思議なくらいです。まさにマジックです。その気になればどんなところでも船は造れるという動かない証拠です。いずれにしても長期籠城可能な我が城です。誰に何を云われようが、私は作り続けます。

工作台

 

フランスの74門艦を作ったとき工作台は厚さ22mmの定尺ベニヤ板を縦に2分割した一枚を使っていました、定尺ですから長さは1. 8メートルです。この台で長さ1.5メートルの船を造っていたんです。

キャロラインを作り出して、ベニヤ板の工作台は納戸にしまい込み、市販の工作台に切り替えました。これはとても便利で、ロングバイスとも呼ばれています。キールを挟んだり、大きなフレームが挟めます。そして台は木ですから挟んだ部品を傷つけることがありません。機械を使うときは、工作台にすぐ変身します。この上に機械をおくのです。そのとき船は床上ということになります。

工作しないときは折り畳んで納戸に入れます。私は何事もフレキシブルを好みます。だから打ってつけの工作台なんです。

テレビ&ステレオ

 

どうして船作りにこんな大きなテレビとステレオ装置がいるんだ。家族からも大分云われました。だけど私は自称マルチ人間です。時にはテレビをサイレントでつけ、ステレオで音楽を流しながら、コンピュータを操ったり、部品作りをしている(ながら族)なんです。好きなラテンとかカントリーを聞きながら船を造っていると、無上の幸福です。私から音と映像をとると、魂の入らない作品しかできなくなります。いつも何かに感激しながら船を造っているのです。工房には雑多にビデオ、音楽テープ、CD、LD、と雑多なメディアが並んでいます。気分によっては一日中サルサのにぎやかなリズムが流れていることもあります。はやりだした一過性のサルサファンなんかとは仲間になりたくないんです。ラテンは50年以上のリスナーなんです。帆船模型を作るより余程私の歴史にとっては大事なライフワークなんです。遠くの方でケーナの音なんかが聞こえるといつの間にかそばに寄っているという本能のようなものがあります。

本 棚

 

工房兼書斎の中に本棚があります。狭い部屋ですからすぐ手が届きます。本棚には船の資料、パソコンの教本が並んでいます。少し手を伸ばすだけで、専門的なジャンルから見ると変な図書館よりは余程資料が揃っています。困ったときにも困りません。すぐ答えが出る仕組みになっているんです。

本棚にはあまり文学書はありません。少し海洋小説が並んでいる程度です。決して文学が嫌いなわけではありません。若いときはむさぼり読んだこともあるんです。それがパソコンの時代になって、純文学書100冊分くらいは軽くCD-ROM1枚に収まってしまいます。昔小さい本箱一杯になっていた本が今ではレコード盤より小さいメディアに収まってしまうんです。それで今ではCD-ROMで満足しています。本の僅かな隙間にボトルが見えます。いやボトルシップではありません。中身は年代のスコッチとブランデーです。コップに氷と少しの水を入れて持ってくるだけで頭はさえてきます。これと長時間付き合いするとその日は自然休業にはいることになります。もう年なんで程々にと絶えず主治医からお褒めをいただいています。私も先生の言いなりに適量を程々にしています。ただその適量が日によって若干違うだけです。

キャビネット

 

引き出しの多いキャビネットが3個あります。内1個には機械の部品がぎっしり詰まっています。ノギスだとかゲージ類、小さいキャビネットですが、鋸歯のストック、ドリル、回転工具、旋盤、フライス盤のアクセサリ。

もう一個のキャビネットは資料です。図面類が詰まっています。中には自分で書いた74門艦の原寸大図面、今まで作ったキットの図面も殆ど揃っています。時々友人からの要請で図面は出張することもあります。いくつか帰ってこないようなものがあるようですが、帰ってきていないのか、自分の整理が悪くて失ったのか定かではないのです。パソコンの用紙類も一杯詰まっています。普通紙、光沢紙、再生紙、両面印刷紙、ラベル用紙、レター用紙、転写用紙、OHPフィルム、色紙、厚口紙、インクジェット紙、熱転写用紙、A4にB5と紙の種類は30種を超えます。今のところ紙には困っていません。もしトイレットペーパーが以前のオイルショック時を再現したとしても、その代用品は沢山あります。

後1個のキャビネットですが、ここには本命の帆船模型用の部品、材料、プラバンとか真鍮板、線、棒などの素材、プラカラーとかアクリル絵の具、帆の材料、凧糸、サンドペーパーなど17段の小引き出しに収まらないくらいぎっしり詰まっています。

塗料の始末

 

工房で一番厄介者は塗料とその溶剤の始末です。まるで火薬庫を抱えているようなものです。それで孫にも絶えず部屋には入らないようにと言い渡してあります。燃えるのも困るのですが、においも大変です。これが企業の工場なら規制を受けるくらいの量をストックしています。1種類の量はそれほどのものはないのですが種類が多いのです。殆どが危険な石油類、有機溶剤、大体塗料は水性に切り替えていっているのですが、全く可燃性の塗料を使わないわけにも生きません。そのうちこれらは屋外保管にしようと考え中です。

工 具

 

チエストの引き出しに入れています。開け閉めが重くていやなので、この前しょっちゅう使う道具はプラスチックのやや大きめの工具箱を買ってきてそこに入れました。絶えず使うものは携帯にしようという魂胆です。それが収納先が増えたのでどちらに入れたのか、分からなくなって、とうとうカッター2本が行方不明になってしまいました。ピンセット1本も見つかりません。こんなのに限って使いやすかった道具なんです。そのうちどこかからこれ以外にも知らない道具が出てくることもあります。

何かもうけた気分になっていやなものです。まあ年中捜し物をしているので、これも必要時間と観念していますが、再発防止をそのときは真剣に考えるのですが、そのうち忘れ、また整理、整頓の標語はどこかへ隠れてしまいます。

機械の居場所

 

多くのモデラーはきちんと機械を工房に設置し、使いやすい配置に整理され便利な環境になっています。だけど私の工房には機械を定位置に固定するような余裕がないのです。それで普段は机の下とか、床上の適当な位置に置いてあります。必要なときはその都度、工作中の作品を移動して、開いた工作台に乗せて使うか、床上で機械を使っています。常に機械を移動するので、健康にも貢献しています。今重いものを運ぶなんて普通殆どそのチャンスはありません。だけど船を作り出すと、重労働を強いられるのでこれは健康増進と船作りにも感謝しています。わざわざ体操をすることはないのです。

材料倉庫

 

造る船が大きいだけにその材料の量も馬鹿になりません。製材済みの材料、木材の固まり、買ってきた角材等、その多くはプラスチックケースの大きめのに詰め込んで普段は納戸の中に入れてあります。必要分だけ小出しして使うようにしているのですが、片づけるのが面倒なので、工房の中が材料で埋まることもあります。これを時々片づけて部屋を広くすると、なにやら快感を覚えます。船作りは色んなところで喜びがあるのです。こんなところでまた僅かなスコッチが減ることにもなります。