デッキ貼り

○ デッキ貼りの前に

帆船模型を作っていて、楽しくどんどん作業が進むときと、苦しんだり、嫌になったりと作業が捗らない状況が交互にやってきます。作業の内で私にとって嫌だなと思うのはこの甲板貼りです。スランプ状態は、考えがまとまらないとき、このときは苦しみを感じます。甲板貼りはこの状態とは違って作業があまりにも単調で、それも長く続くので嫌になってしまうのです。だけどこれを乗り越えないことには完成しないことは百も承知です。とりあえず準備を進めましょう。

 

○ 木栓を作る

普通甲板は金属釘(主に真鍮とか銅)でフレームに固定し、釘の酸化防止のため座繰りを深く入れ、釘の上から木栓で覆います。模型でこれを表現するとき、丁寧に作るのなら本物同様釘を打って木栓をはめ込むことになりますが、多くは釘を打たないで木栓の形だけを表現しています。木栓の表現方法も、丸い線をテンプレートを使ってペン書きするとか、注射針の先端を、パイプ状にカットし押しつけて彫り込み線を付けて表現しますが、このキャロラインの場合は、釘を打たないでいきなり木栓を打ち込む方法を採り実感的なものにしました。

それで甲板貼りの最初の工程は木栓をいやというほど量産します。木栓の数にすると約3500本ですが、長い丸棒を作ってカットしていくので丸棒は約200本くらい作っておきます。

材料は引き抜き加工のしやすいぶなを使いました。最初ぶなの板を1. 5mm角くらいの細い角棒にカットしておきます。長さは5cmくらいです。1mm厚さの真鍮板に2~0.5mmくらいの丸穴を0.1mm毎の直径で開けて置いたものをダイスにし、これをバイスに固定して太い穴から順にぶなの細い角材をペンチで引き抜きます。今回は1mmの太さで止めたのですが、うまく引き抜くと0.5mmくらいまでには細くなります。


真鍮板で作った木栓ゲージ、0.5~2mmまで0.1mm刻みで穴を開けた

細く切ったぶなの角材を木栓ゲージの穴の大きいところから小さい方へペンチで引っぱりながらしごいて引っぱり、だんだん細くする

ときには失敗し、木材が折れたり、切れたり、1本作るのに10回も穴を通しながら直径1mmの丸棒を作る。ようやくこれだけ揃った


○ 甲板下貼り

この工程は模型独特のものです。本物の船が甲板の下に下貼りの板を貼るなんて事はまずありません。模型の場合甲板の厚さが薄く、綺麗に貼るためには下貼りを必要とするのです。というようなことで、厚さ1mmの航空ベニヤ板を分割して甲板一面に貼りました。そしてこの板に船の中心線と甲板の幅に相当する線を鉛筆で描いておきます。


甲板を貼る基板は1mm厚の航空ベニヤ板、それに甲板材を貼る位置を鉛筆で罫書いておく

本物の船ではあり得ないことだけど、模型の場合は甲板を貼る前に基板を貼って、上に貼る甲板材を基板に全面糊付けする

船体ビームの上にぴったり沿うよう、甲板基板を貼り付け固定する


○ ピッチをカット

ピッチをカットなんて変な話です。本物の船は甲板の板と板の間を防水のためピッチで埋め込んでいます。これを表現するのに黒画用紙を使ったんです。黒い画用紙を幅2mmにカッターナイフでカットしたものを相当数用意します。


ピッチにする黒画用紙をデバイダーで分割点を入れる

分割点を当てに細い帯状に画用紙をカットする

カットした画用紙、これだけあっても足りないくらい


○ 甲板を貼り始める

板材の接ぎ方は英国式でスリーバット・シフトといって4枚毎に段差が付くようになります。予め描いた下貼り板のラインに沿って直線が崩れないよう、まず船の中心線に沿って縦に一直線に貼ります。アナトミーの本には段差の表現はなく、長い板になっていますが、現実には図面のような長い板はないという解釈でスリーバット・シフト方式を採用したのです。1列全部貼り終わったところで、板の側面に黒い画用紙を貼ります。甲板の厚みより幅が広いので浮き出しますが、気にしないで貼っていきます。そして甲板材を隣に貼っていきます。

この作業を繰り返し甲板の面全面に及ぶまで延々と続けます。

甲板の継ぎ目
甲板の継ぎ目

しっかりビームの上に甲板基板を貼り付けた

甲板基板の上に1枚1枚慎重にデッキ材を貼り詰める

間にピッチの黒画用紙を沿わせデッキ材を貼る



大分工程が進み周辺を除いて殆どデッキ板が貼られた

デッキ貼りに使った主な道具、接着剤は木工ボンド使用

マスト穴、デッキ材を貼ってから穴を開ける



○ 木栓用穴開けと打ち込み

甲板を貼り終わったら、フレームの位置に相当するラインに鉛筆で線を入れます。甲板材の長さ方向に4分割になります。このフレームラインを基線にして木栓打ち込み用の穴をゲージを使って開けていきます。木栓を直径1mmで作ったので、1. 1mmの穴を開けました。先ほども述べたように約3500本になります。実際に作業をしてみると、この3500本というのはほとほと嫌になります。この穴に木栓の細い丸棒を木工ボンドを付けながら差し込みカッターナイフで甲板の板上面でカットします。


穴開けゲージで位置決めしながら木栓打ち込み用の穴を開ける

ビームラインに沿って穴を開ける

木栓にボンドを付け穴に差し込んで彫刻刀でカットする



根気よく木栓を打ち込む、入れた木栓全部で3500本

木栓打ち込み直後、木工ボンドが乾いていないのがよく分かる

ようやく木工ボンドが乾いた、これから研磨が始まる



最終は#1000のサンドペーパーでデッキを磨く


○ 甲板貼りは磨きで終わる

長い作業も終焉に近づきました。今のところ甲板の表面は荒れており、画用紙も不規則に飛び出ています。そして打ち込んだ木栓も傾いた断面のまま林立しています。これらをまとめて板貼りのサンドペーパーで磨き平滑にしていくのです。これがまた根気のいる作業、はじめは#100そしてだんだん細かくしていき、最終は#1000こうなると甲板の表面は滑らかで、じわーと光沢を感じるようになり、手で触ってもすべすべ感が味わえます。ピッチはくっきり表現されいかにも本物の甲板のような味わいが出てきます。だけどこのままでは何か変です。そう生地が白すぎるのです。やはり本物らしくするにはある程度の着色と仕上げが必要です。この船ではワトコオイルにオイルステンのオーク色を少し混ぜ、薄い茶色の状態でワトコオイルを布にしたし、甲板上を塗りました。


ただ今の所作業はここまでです。これから以降はある程度工程が進み次第あらためてレポートします。