福田 正彦

第3日 2013年8月5日 : コペンハーゲン(COPENHAGEN) デンマーク

 

 前方にドーバー海峡ほどではないと思うのだが、白い崖を見ながら8時には朝食。今朝は卵2個の目玉焼きを注文する。「フライドエッグス プリーズ、サニーサイドアップ」と気取ってみたが、フライパンにはどこにも蓋がない。どのみちサニーサイドアップになるんだと、ちょっと恥ずかしかった。それでも朝飯はうまい。岩崎さん、高橋さん、佐藤道子さんなど女性陣も劣らず皿を一杯にしている。荻原さんも体格に似合った盛り付けだ。はっきりしているわけではないけれど、どうもスター・クリッパーの時よりもこの船の方がおいしいような気がする。

 

 10時半にマスト登りが始まった。本船では航海中合わせて3回ほどマストに登る機会があったがどうも女性陣の方が活発で、岩崎、高橋さん姉妹以外はすべて登っている。マストといってもロアーマストのトップまでで、大した高さではないにせよ登ってみれば結構高さを楽しむことができる。

            

関口さん

 西谷ひさこさん

うちのかみさん


 最初のマスト登りでちょっと問題が起きた。35人という日本人の団体は添乗員がいるのでどうも囲い込みが激しい。この日も登る順番を早くから確保したらしくて大分待たされた。本来こういうことは登りたい個人が集まって順番に登るべきもので、写真を撮るために途中までしか登らないとか、降りてきたら拍手喝采で迎えるというのとは無縁の筈なのだ。ぼくの順番が来て、さて、と思ったらこの団体に日本丸に乗っていたことのある人がいたらしく「お手本を見せて頂きましょうよ」と一斉にいう。それを受けてご本人が出てきていいでしょうかという。喧嘩するのも大人気ないから、しょうがないですなと不満を表明して順番を譲った。それほどのお手本とは思わなかったが、トップの上で"イヤー50年ぶりで登った!"といっていたからあんまりお手本にならないわけだ。

 

栗田敦子さん

トップから船尾を見る

恥ずかしながらわたし


 

 本船は操帆が自動化されているから、マストに上るためにラットラインを張ったシュラウドは左舷に1組しかない。おそらく点検と客用だろう。またトップからクロスツリーまで登るシュラウドも右舷に1組だけだ。通常の大型帆船では1つのヤードでのセール操作に20人ぐらいは必要だし風の急変に備えて一斉に登らなければならない。どうやって登るのか、ラットラインを2段ごとに上った外国人もいたが、これは足の長さを証明するだけで、速度はそれほどでもない。その答えが後に上映された帆船「ペキン」のケープホーン航海の映像にあった。シュラウドはあまり上を握らず、したがってお尻をグンと外へ突き出すことができる。シュラウドに対してベッタリではなく三角形になるのだ。そして足で蹴る。素早く手を握り換え文字通りましらのごとくシュラウドを登っていた。安全索がないという違いはあるが、これぞお手本で昔の帆船乗りはこれが出来なければ一人前ではなかったろう。

 そうこうするうちに右舷はるかに長大な橋が見えてきた。その手前には風力発電用の大きな風車が無数に見える。右の地図でいえばこれがデンマークとスエーデンを結ぶ道路橋だ。行きの飛行機で上からこの橋が見えた、と思った。しかし上から見ると両端が明らかに繋がっている。実際には右の図の島の下に人工島があってその左端から海底トンネルになっているのだ。高架道路が8km、人工島部分が4km、トンネル部分が4km合計16kmだと佐藤さんに教わった。本船はそのトンネル部分を通過してコペンハーゲンに近づく。やがて本船が停止すると真っ赤に塗ったモーターボートが近付いて、小さなザックを背負ったパイロットが乗り込んだ。なかなかイケメンよと女性たちが騒ぐが、彼はレーダー画面を見ながら静かな声で舵手に 「スリー・スリー・トゥー」とだけ言う。「スリー・スリー・トゥー・サー」舵手は舵輪を左に回し船は取り舵で港に近づく。こういった遣り取りが何ともいい。開放的なブリッジでこういう雰囲気を壊すなと船長が最初に注意したのだ。一つ間違えば事故につながりかねない。

 

 

左が長大な高架橋と風力発電装置、右は本船のブリッジで右奥が船長、その隣がパイロット。左 奥霞さん


 

 午後2時に接岸したコペンハーゲンはデンマークの首都。近くにある人魚姫の像が有名だが、われわれの目的はバイキング博物館だ。バスに乗り込んでまずはロスキルという小さな町へ行くが昔は首都だったと説明にあり、12世紀に建てられたロマネスク様式のロスキルデ大聖堂に寄る。ここには代々のデンマーク国王や女王が祀られ、たくさんの豪華な棺が安置されている。仏様と火葬という様式に慣れたわれわれから見ると少し異様だ。年配の女性による英語の説明だから詳しいことは分からない。しかしマイクと各人に貸与された受信装置がきわめて優れていて雰囲気を壊さないひっそりとした説明がとてもよく聞こえる。大聖堂としての配慮だろう。

 


 

 バスで坂を下るとすぐバイキング博物館がある。自由に見学して下さいということでみんなそれぞれに見に行く。広大な気持ちのいい雰囲気で本館には防戦のためにフィヨルドに沈められたロングシップを引き上げて何隻も復原している。興味を持ったのは昔の木材の取扱だ。鋸のない時代だから楔で縦割りしている。その実演、というより日常の作業を見せる。


左:復元されたロングシップ、  中:小型のバイキング船で客を乗せる、   右:クサビで木材を割る実演、

当時は鋸がなかったという。ここでは実際に船を作っている。

 実際に船を作っているのだ。そしてもう一つ興味を引かれたのがロープの作業場だ。材料はリンデンバウムの皮だという。ドイツリートにも詠われている菩提樹だろうが、辞書によるとシナノキ科の落葉高木で西洋菩提樹というらしい。いずれにしてもシナの系統で、案内の女性の説明では当時のロープの80%はこのリンデンバウムが使われたのだとか。身近にある木だから当然で麻や木綿はほとんど使っていなかったようだ。

 

左:実際に船を作っている作業場、工具なども展示してある

中:ロープの作業場、リンデンバウムの皮、撚り方を見せてくれた

  右:作業場と本館の外観


 午後5時過ぎには博物館を出てバスは田園地帯を走る。一面の小麦畑だったり小さな村だったり大型バスがよくもこんなところを、と思っているうちに畑のあぜ道に入って変なところで停まった。ここはOM村というところで6000年前に作られた古代のお墓の址があるという。ぞろぞろと入ってみたが何しろ暗くてよく解らない。土地の農家の人が偶然見つけたもののようだが、まあ始皇帝墓ほどの価値はないかもしれない。

 


 

 バスは賑やかなチボリ公園遊園地の前などを通り、われわれはスター・フライヤーに帰る。ここで冒頭のように栗田夫妻と再会、全メンバーが揃った。ナスのタルト、太刀魚、エスカルゴのスープ、メインはちょっと遠慮してチーズとアイスクリームで済ませる。「The Rope Group」という札の立てられた2つのテーブルはフルメンバーで大いに賑わった。

 

 出航すると甲板はもう涼しいというより寒い。堀岡さんを囲んで高橋さんと岩崎さん姉妹が震えていたが、長袖でも薄いともたない。10時半にはピアノバーでクラシカル・コンサートがあり、ポピュラーではあるけれども珍しく真面目な顔をしたジョゼフの演奏を楽しんでから寝た。とても柔らかなタッチで、なかなかの演奏だった。