ここには殆ど器物はありません。ここは専ら艦長、及び一等航海士等の高級士官が入り、ここからは上部甲板での操船、人の動き、進行方向が掴めるので見通しの良い環境になっています。勿論トップからの通報で敵船の状況も観察します。

 唯一器物といえば後部に薄い箱のようなものが2個見えます。これは鳥篭なんです。鶏が鳴きながら外側のレールの中の餌箱をつついています。こんな所にこんなものがあるのはフランス艦だけの特徴でしょうか。イギリスの船ではこのようなものは見たことがありません。

 

 もう一つ艦尾には国籍を示す旗台があり、マストを差し込めるようになっています。本物の船は旗台があって旗のマストを差し込むのですが、多くの模型はここもいきなりマストを固着してしまいます。要するに戦う姿勢を持った緊張を感じる設計にはなっていないのです。

 

 良く旗が風で靡いている様子を表現したいと旗のサイドに針金を入れてそれを曲げ、それらしい感じにした船があります。一生懸命作ったのでしょうが、よく見ると汽船のように艦尾の方向に靡いている。帆は風をはらんで前走疾駆している。あれこの旗の靡きと帆の風の方向は正反対だよという笑い話が初期の頃良くありました。

プープデッキを上から見た。
プープデッキを上から見た。
プープデッキは取り外しができる。
プープデッキは取り外しができる。
プープデッキを取り外すとその下には艦長、航海士の私室と奥には艦長公室を見ることができる。
プープデッキを取り外すとその下には艦長、航海士の私室と奥には艦長公室を見ることができる。

 

 このデッキも全部板を貼っていません。理由はアッパーデッキと同じです。だけど張り合わせが悪く、完了するまで2回も張り替えました。こんな作業はなぜ失敗したのかと原因が分からないだけに悔しくなるのです、かといってここまで精密に仕上げてきて、作業を止めるわけにはいけません。

 

 このデッキの特徴として船首部分のフォアキャッスル、船尾側のクオーターデッキそれを連結しているボート横のギャングウエイがありますが、片弦を板貼りにし、片弦は板を貼らないでビームが見え、構造がよく分かるように配慮しています。

 

 マスト穴の側にはアッパーデッキ、又はガンデッキから貫通したビット類がデッキの上に立っています。船首側には荷物などの積み込み用の小型キャプスタンがあります。

 キットで船を作った人ならよく分かると思いますが、ビットというのは帆のロープ類を作業後ビレーピンに巻き付ける柱のような物です。これがキットの場合いきなり甲板に接着剤でくっつけます。強度を増すために金属線などを仲介にして接着することもあります。だけどこの辺をよく考えてみるとこの船は1/48の縮尺なのでこれを48倍の本物にした場合、デッキにくっつけた程度のビットで強度が得られるだろうか。

 

 たとえ本物でも体ごとぶつかると簡単に倒れてしまうのではないでしょうか。実際に私もキットのロープ張りをしている途中でビットが外れロープ張りが滅茶苦茶になった経験があります。悲しいことはこれが本物と同じ構造であると信じ込んでいる人がいるということです。何もいきなり甲板に付けたからこれは悪いといってるのではありません。

 私のいいたいことはキットというのは形だけを追いかける模型であって、決して理屈のあった船ではないということです。だから多くのベテランは、本物の船の構造を知ろうと勉強します。本物の構造を良く知った上でキットを作るため、見かけ上は矛盾が見られないのです。

 

 この模型ではあくまでも本物を追求しました。だからビットも手抜きしないでフォアキャッスルからアッパーデッキまで貫通し、太いビームに固定しています。もう一つこの模型船ではビットも含めて船には沢山の滑車が付いています。これらの全てを本物同様、滑車を付けたということです。キットだとか小さい船では現実に滑車を付ける工作余裕がないので穴だけ開けてあるというのが殆どです。

 

 キャプスタンの後ろに見えるのがギャレーハッチです。ハッチですから取り外し自由ですがこの模型では固定しました。このハッチには雨などが竈に入り込まないよう、又排煙も兼ねたフードが付いています。これは鉄道模型の技法を利用して、真鍮板で作りました。

 

 ギャングウエイには脱落防止としてブレストレイルで保護している。荒れた海では命を助ける支えとなる。支柱の太さはもっと太くても良いかなと思ったが、模型で1mmでも本物なら50mmで1本だけで50人くらいは支えられそうだ。無理に太くしてオーバースケールにしなくても、見た目で細いと感じても縮尺に忠実を重視した。

 

 ブレストレイルの支柱は真鍮の角棒から削りだしました。だから一体ものということです。強度は接着したものより抜群に強くなります。仕上げは黒に化学染色しました。