2023年3月21日(祝)
かながわ県民センター
担当: 平石 浩二
本年2回目となる研究会が開催され、24名の会員が参加しました。
テーマは、「スクラッチビルトによる帆船模型製作のための設計製図について(事例報告と提案)」で、竹本さん(右写真)から、パワーポイントを使っての製作事例の報告及び帆船模型の設計図に係る著作権等の解説がありました。
概要は次のとおりです。
1 船体組み立て治具なしで曲がりや捻じれ等を出さない設計製作の方法
(1) スクラッチビルトの定義から始まりましたが、概ね次の4通りに分けられるとの解説がありました。
➀ キットの付録図面を入手して材料を購入し製作する。
➁ キットの図面に手を加えてサイズ変更も含め図面を引き模型を作る。
③ 実船の写真や数値資料から設計作図して製作する。
④ 実船によらず、自分の好みの船を描き、創作模型を製作する。
竹本さんは、これまで20数隻の帆船模型を手掛けており、最初の3隻はバルクヘッドのキットにより製作を行いましたが、それ以降は、上記 ➂ の方法によるスクラッチビルトで製作をされております。
(2)船殻の曲がりや捻じれを出さない設計作図の事例の開発経緯について、次の報告がありました。
今から40年ほど前にザ・ロープの創設者により執筆された帆船模型製作の本には、正確な船台を作ることが全ての基礎となるという趣旨の記述がある。この説明に従って、船台を作って製作をしたところ、いくら作っても曲がりや捻じれが生じてしまっていたが、紙による船舶模型を造られている方と話をしていて気づきがあり、船舶の曲がりや捻じれを生じさせない作り方を考案したのが、次の方法である。
➀ キール材(縦の中心板)を頼りにせず、喫水線付近に厚めの中甲板材を設け、これを船殻の中心部材(基盤)
に設計する。
➁ バルクヘッド材は、上から嵌めこまず、横(舷側方向)から差し込む。キール材は、せいぜい位置決めの役割
があればよい。
③ キール材にラベットを刻む必要はない。
④ しょせん、木材は不均質で水分を呼吸している。経年変化は避けられない。組立時に治具で固定し、正確に組
んでも時間とともに曲がりや捻じれが出る。これに対応するには構造的に対処するしかない。
➄ 正確な位置決めを必要とする構造模型に組み立て治具は必要である。
竹本さんは、以上の方法により、ねじれも曲がりもなくしっかりしてできたとのことです。
キール材の事例(蒼龍 2015年設計)
(注)キール材は、長さ904㎜に対して厚さわずか2㎜の共芯シナベニア材で製作した。船体組立治具は使用せ
ず、船殻を正確に組み立てることができた。8年経過した現在でも船体の曲がり捻じれは出ていない。
2 模型の分割・再組立の試み
主題の報告に先立ち、インドネシアにおけるビシニ船の建造方法の報告がありましたが(竹本氏は同船を44回展で出品)、この船の建造方法は西欧式とは全く異なり(設計図代わりに竹材と紐を使って船殻等の仮枠や骨格を作り、これを基準として、内側は木材を使い、置き換えていく不可解な造船技術)、世界文化遺産にも登録されている方法です。 (右写真 インドネシア ビシニ船の建造風景)
本題に入り、完成品の置き場所に苦労することがないよう、コンパクトに保管する方法及び未完成で出品後に内装等の追加工事が可能な製作方法についての報告が次のとおりありました。
➀ ピンとボルトを接着剤代わりに使う。
➁ 客室の天井の板が取れるようにし、後日、内装を追加できるようにする。
➂ マストが取れるようにするためリギングをゴムで張ることなど検討中。
➃ 上下2分割で製作する。上部がバルクヘッドモデル、下部が構造模型など。
➄ アイデアを取り込むことが可能な設計をする。 (右写真 竹本氏によるビシニ船の製作風景)
(注)船体部と客室部は別々に製作し、接着剤を使用せず木ネジ止めで組み立てている。随時分解できて、船室内部のレイアウト変更などが行える。この上に2階客室部分もネジ止めで組み立てる。
3 船舶模型の設計図は著作権法で守られるのか。
竹本さんからの報告として三つ目は、報告者が自ら経験した著作権に係る事例の紹介から始まり、私たちがスクラッチビルトで製作する際に作成する自作図面や製作物と著作権との関わりについて、著作権法上の関係規定を簡明に紐解きながらの解説がありましたが、総括として次のとおりの説明がありました。。
➀ 著作権法は「わかりにくい法律」であるが基本的には知的財産権保有者としての著作者を護るための法律である。
➁ 工業製品を対象にした「特許法」が経済産業省・特許庁の管轄であるのに対し、「著作権法」は文部科学省・文化
庁が管轄しており、著作物は、文芸、学術、美術、音楽の範疇に入る。
③ 帆船模型は「模型」そのものも、模型を造るための「設計図面」も、共に「著作権を有する著作物」に該当する。
④ 著作権は国への申告許可を必要としない。有効期間は著作者の没後70年である。
※ すべての作品や設計図が著作権に該当するとは限らないが、スクラッチビルトで製作された帆船模型とその設計図面は著作物になる可能性がある。
今後、当会ではスクラッチビルト作品が多くなってくると期待されるので、著作権法を認識して自らの製作した帆船模型を護り、併せて他の人(法人も含む)の著作権に対して違法にならぬよう留意すべきだろうと思う。
以上の、竹本さんからの報告に関し、出席者からは、補足や過去に他の同好会が著作権に関してトラブルになった事例等の紹介もありました。